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あおのり日記
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月日は百代の過客にして、行きかう人もまた旅人なり。
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「12色の妄想恋物語 」 の記事一覧
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2008.06.29 Sun
5月の妄想恋物語

 「五月晴れ」という言葉を聞いたことはあるが、それがどういう天気をさしているのか、無知なオレには分からない。

 オレが分かっているのは、今、自分が五月病だろうということぐらいだ。入社して1ヶ月、少し慣れてきたのと、ゴールデンウイークあけということもあって、モチベーションが上がらない。ゴールデンウイークも土日と重なり、たいしてありがたみのないゴールデンウイークだった。彼女もできない学生のころのバカ仲間で集まって飲んだくれただけのちょっとした休み、そんな感じだった。



「コウジくん、五月病? ボーっとしすぎじゃない?」
 その声は、午後の退屈な眠気をすべて吹き飛ばす。この声を聞くために仕事に来ているような気さえしてくる。

「あ、すいません、まなみさん。なぁんかイマイチ集中力が続かなくて・・・」
 社会人としてまるで自覚がないような答えを返すオレに、まなみさんはそれを包み込むかのような笑顔で応えてくれる。

「今日は金曜日だし、仕事終わったら飲み会なんだから、もう少ししっかりがんばろ☆」
「はい、がんばります。」

 小学校に入ったばかりの一年生のような単純さでやる気を出す。きっと男は何歳になっても単純なのだろうなとふと思ってしまう。




 まなみさんは去年入社したばかりの1つ年上の先輩だが、仕事バリバリの「できる女」的な感じだ。そんな「できる女」のまなみさんの見せる屈託のない幼くさえ見えてくる笑い顔にオレは一目ぼれしてしまった。


 一目ぼれと女友達に言うと、「そんなの見た目で決めてるだけじゃん! これだから男って奴は」と小言を言われた。「お前だってエグザイルの新しい人かっこいい、かっこいい言ってるじゃねーか。それも結局見た目だろ?」と文句を言いたくなったがめんどくさいのでやめた。

 一目ぼれというのは、見た目とかそういうのを越えてる気がする。その人の性格、考え方とかから由来する雰囲気は、見た目ににじみ出てしまう気がする。必ずしもそうではないだろうが、そういう雰囲気が自分とぴったりだと感じてしまうのが一目ぼれなんだろうなと思う。



 ただの思い込みだと言われればそれまでだが、オレはその直感を信じたい。





 まぁ、何はともあれ、今日は職場の飲み会だ。何か、もっとまなみさんと親密になれるチャンスがないかという下心がぬぐえない。


 しかし、そんな甘い思いは簡単に粉砕されてしまう。
 お決まりの部長の長いあいさつがすみ、課長の乾杯で始まると、すぐに係長からの説教が始まる。一口飲んだだけで、もう酔っ払ってしまったのかと思うぐらいの勢いで話してくる。「お前はまだ学生気分が抜けていない。接客態度が甘い。そもそも敬語が使えてない。オレの若いころは~」ドラマとか漫画に出てきそうなぐらいの王道パターンで、20年前の思い出話が始まる。

 まなみさんはと言うと、部長の隣でポン酒をついでいる。まなみさんは、人の話を聞くのがうまいというか、褒めるのがうまいというか、部長はかなり上機嫌だ。

 かたやオレは、係長の話に相づちを打つことしかできず「おい、ちゃんと聞いてるのか」と怒られる始末。うんざりが顔に出ないようにするのに必死だ。


 あぁ・・・オレはまなみさんと話がしたいのに・・・。





 結局おひらきになるまで、まなみさんとまともに話せなかった。二次会は課長の行きつけのスナックらしい。「コウジ、お前も行くよな?」と言われ、「はぁ」と曖昧な返事しかできないでいると「こういうときは、黙って最後まで先輩についていくもんなんだ」と怒られた。
 先月に2回連れて行かれたが、母親より少し若いかぐらいのおばちゃんたちと話したところで何一つおもしろくもなかった。


 「よし、行くぞ!」
と課長の10歳は若返ったかのような元気な声で先輩達はぞろぞろとついていく。足を前にすすめるのが憂鬱に感じていると、後ろから会計を済ませたまなみさんが店から出てくるところだった。

「課長は元気だねぇ。コウジくんも二次会行くの?」

「そう・・・ですね。あんま乗り気じゃないんですけどね。」

「じゃ、帰っちゃおうよ。」


 まなみさんはいつも物事をはっきり言う。そんな意外と男らしい面も好きだ。いや、女性だからこそきっぱりしているのかもしれない。

「いや、でも課長にさっき来いって言われたばっかりで・・・」
オレのほうが全然煮えきっていない。


「相手は酔っ払いなんだから大丈夫だよ。ほら、逃げちゃお♪」

 そう言って、まなみさんはオレの左腕をつかみ、みんなとは逆方向に駆け出す。



「え? え?」

 驚く間もなく、その天使の導く方向へオレも駆け出す。



「あれ、あの二人・・・」
後ろから先輩の声が聞こえてきたが、けして振り向かなかった。


 オレがひっぱっていきたかったのに、逆にひっぱられて少しくやしさにも似た感情が少し。でもそんな感情は、まなみさんの手のぬくみにすべてかき消される。5月のほどよい気温よりも、少しだけあたたかい心地よいぬくもり。頬に当たる夜風が、春の香りをまき散らし、とんでいく。


「まなみさん、なんか・・・楽しいっすね。」

「そだね。月9だったら、バックでミスチルの曲が流れているような感じ・・・かな。」

「え?」



 その抽象的な言い回しに、何かをかきたてられずにはいなかった。

 でも、知っている。
 まなみさんには遠距離の彼氏がいるというウワサをすでに聞いている。その間にオレが入り込めるスペースはあるのだろうか。それは分からない。




 角を曲がったとこで一息ついた。

「久しぶりに走ったよ、わたしちょっと運動不足かも。これだけなのに疲れちゃったよ。」

「オレもですよ。なんか心臓がバクバクいってます。」

 心臓の鼓動が早くなっているのは、走ったせいではないことは分かっている。


「月曜日に会社行ったら、なんて言われますかね。」

「別にいいんじゃない。言いたい人には言わせておけば。」

 やっぱり、まなみさんはさっぱりしている。そんなさっぱりのまなみさんだから、もうストレートに聞いてみよう。


「まなみさんには彼氏いるんですよね?」

「うん。いるよ。」

予想通り、即答された。ちょっとの期待感はあっけもなく崩れていく。

「順調なんですか?」

「う~ん。そうでもないかな。遠距離ってのもあって、ちょっとね。」



 一瞬喜んでしまった自分に自己嫌悪する。まなみさんが好きなのに、まなみさんの不幸で喜んでしまう自分がいる。それは、どうしたらいい感情なのだろう。


 まなみさんからいろいろ聞いた。もうつきあって3年目だとか、あんま会える時間がなくてぎくしゃくしてるとか、それでも好きな気持ちに変わりはないとか。



 駅まで行って、「じゃあ、また来週」と別れた。ホームに入ってくる電車の音に重なって、頭の中にミスチルの桜井さんの甘い声が流れてきた。





 次の日、アパートのベランダに出て、外を眺めた。
 土曜日の朝はどこまでもきれいに晴れ渡っていた。五月晴れというのはこういう天気のことをいうんだろうなと、なんとなく思った。

 オレがまなみさんを好きな気持ちも変わらない。すぐには変えられない。
 これから、どうしたいのかも分からない。



 とりあえず、来週もあの笑顔を見たいな。
 

 五月晴れの何もない空を、飛行気が足跡をつけながら、どこか遠くへ進み続けている。




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2008.05.31 Sat
休載のお知らせ

月一連載の「妄想恋物語」は
作者取材のため休載させていただきます。




(合コン的シチュエーション取材)


来週ぐらいまでお待ちください。


過去作品↓
1月の妄想恋物語 http://aonoristation.blog33.fc2.com/blog-entry-248.html
2月の妄想恋物語 http://aonoristation.blog33.fc2.com/blog-entry-251.html
3月の妄想恋物語 http://aonoristation.blog33.fc2.com/blog-entry-260.html
4月の妄想恋物語 http://aonoristation.blog33.fc2.com/blog-entry-266.html


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2008.04.29 Tue
4月の妄想恋物語

 東北の春は遅い。

 桜のつぼみは春の訪れを待ちきれないと言わんばかりにふくらんでいる。

 私はこの小さな町が見下ろせる小高い丘に一本だけたっている桜の木が好きだ。ふらりとこの場所に来ては、静かな幸せなひとときを感じる。
 人によって小さな幸せを感じる瞬間は違う。お父さんはほろ酔い気分での帰り道、遠くからかすかに聞こえる電車の音を聞いたとき小さな幸せを感じる。おばあちゃんは山で採ってきたたらの芽で天ぷらをジュージューあげているときに小さな幸せを感じる。10歳も離れている下の弟は、憂鬱な月曜日の朝にセブンで立ち読みする週刊少年ジャンプに小さな幸せを感じる。

 私にとってのそれは、この桜の木の下で春の強風に舞う花びらが空に吸い込まれていく瞬間なのだ。



 よく桜の木には妖しい迷信がある。

 『桜の木の下には死体が埋まっている。その血を吸って桜はキレイな花を咲かす。』



 この桜の花は毎年、コウジが咲かせている。同い年のコウジは22の春にバイクですっころんで死んだ。3年後に結婚しようなと約束していた私のことなどきっと考える余裕もなく即死だった。私は火葬されて残った灰を、二人でよく来たこの桜の木の下にまいた。

 桜がいっそう咲き誇るようにと。

 二人で過ごした時間が色あせないようにと。




 あれから9年。世間一般的に言われる婚期を少し過ぎた私は、会社の課長さん連中からいろいろな声がかかる。「ちょうどうちの隣の家のせがれも、まだ結婚してなくてな。」「営業の佐藤くんなんかどうだ? 仕事はできるし優しいし、申し分ないと思うぞ。なんなら一席もうけてもいいぞ。」

 普段は「うちの鬼ババアときたら……」「あんな奴と分かってたら結婚しなかったのに……」と結婚のデメリットしか口にしないくせに、やたら結婚をすすめてくるのはどういうことなのか。私なんかの心配をしているのだったら、自分の髪の生え際の後退を心配したほうがいいのにといつも目線を上にやりながら思う。


 別にコウジと結婚の約束をしていたから生涯結婚しないなんて考えるほど、もう乙女ではない。9年という年月は脳裏に浮かぶコウジの顔に少しずつもやをかけてゆく。
 コウジの分まで幸せになればいいんだよという模範解答のような話を周囲から何度もされた。そんな綺麗事ではない。コウジの分とか背負うわけではなく私は私の人生を生きるだけだ。




 半年前、お見合いをした。相手はケンイチさんという福祉のお仕事をしてる人だった。けして万人がかっこいいなんて言うような人じゃないが笑顔がとても素敵だった。
 ケンイチさんは35歳。いい年だ。お見合いから、もう5回のデートをして、ついにこの前、結婚の話をされた。

 5回もデートに行ったのだ。その気がないわけではない。でも、どうしても決心がつかずあいまいにごまかした。

 私はこの人と一緒になって幸せになる。二人での生活、やがては生まれるだろう子ども、そんな先のイメージは想像できる。きっと大丈夫だ。


 でも、それでもホントにいいのだろうか。何かが怖い。



 ただの心配性と言われればそれまでだが、決心がつかない。





 いつだったか。コウジとドライブに行った。
「あれ、こんなところにも桜の木あったんだ。花が咲いてないときって意外と気づかないんだな。桜ってすごい華やかなイメージだけど、花咲いてんのって1年で2週間ぐらいしかないんだよな。」



 輝いている時期って意外と短いんだ。


 幸せの時間もきっと一緒の気がした。つらい時間があるからこそ、幸せの時間がより幸福に感じる。






 そんな今までのことを思い出しながら、今日もこの小高い丘の桜の木の下に来た。

 今日のデートの待ち合わせはこの桜の木の下にした。
 ケンイチさんに一方的に「町が見下ろせる丘の桜の木の下」としか伝えてない。ちゃんとこの場所へたどりつけるだろうか。ちょっと意地悪なこんなことをしたのはコウジのせいだ。



 昨日の夢の中にコウジが出てきたのだ。

 夢の中のコウジは職場の上司になっていた。夢の中の設定なんていつも適当だ。
 お茶を差し出す私にコウジは説教をしてきた。


「今から言うことは矛盾してるかもしれないが、黙ってよく聞けよ。」

「はぁい。」

 夢の中の私は素直に、少し若ぶって返事をする。


「社会で生きるうえで結婚とか出産ってものは、自分の年齢とか今現在の環境とかそういうものを考えた上でしていくものだ。キミもいい年だ。そろそろ共に人生を歩むパートナーを決めてもいいんじゃないか。」

 私は少しうんざりした顔を露骨に示す。
 それを気にせずコウジ係長はやさしく続ける。


「でもな・・・。本来、結婚とか出産って計算してするものじゃないよな。」



 コウジはお茶に口をつける。

「ん、なんだ、このお茶は。にがすぎるぞ。こんなお茶も入れられないようじゃ嫁の貰い手はいねぇぞ。」

「大きなお世話でぇす。」

 少し困ったような笑い顔をしながらコウジは消えていく。






 丘の向こう側に小さな人影が見えた。
 
 ケンイチさんだ。
 向こうもこちらに気づき大きく手を振ってくる。

 こんな無茶な待ち合わせを指定した私に怒っている風でもなく笑顔でかけよってくる。


 私は家で作ってきたサンドイッチをバックから取り出す。

 あの返事は、これを食べてからゆっくり答えよう。


 「さ、お昼ご飯食べましょっか。」



 桜の根元から生えている小さなタンポポの周りをモンシロチョウが二羽仲良く飛んでいた。




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2008.03.16 Sun
3月の妄想恋物語

[今回の妄想は福島大学漫画研究会誌「YOGUSS」より、ナルセさんの作品「さよならカウントダウン」をもとに構成しております。許可してくれたナルセさん、サンクス☆]



 今日も空の位置を確かめる。


 少しずつ日が長くなっていくのが実感できる。春はもうすぐそこまで来ている。
 寒いのが苦手なオレは、いつも春が待ち遠しい。しかし、今年だけは違う。こんなに春になるのが億劫に感じるのは初めてかもしれない。

 日かげに残る雪を見てもう見おさめかなとも思う。東北の山の中にひっそりと立っている大学に来たのが4年前の春。田舎に来てしまったと嘆いていたのころがまるで昨日のように懐かしい。


 オレとミサのつきあいも2年半になる。ミサは小さく小動物のようで、甘いものに目がなく、寝るときはシュライムのビーズクッションを枕にする。かわいらしい彼女だとよく言われたりする。
 ただ、ミサは少し不思議ちゃんだ。ミサはオレのことを「だぁ」と呼ぶ。ダーリンの「だぁ」らしい。さすがにどうかと思う。サークルの仲間は猪木のモノマネをしながら馬鹿にしてくる。

「1、2、3、ダァ―――!!!」


 でも、それはそれで楽しい日々であることは間違いない。そんな日々にも、もうすぐ卒業という終わりが来る。と、それと同時に、オレとミサの日々も、いつか来る「さよなら」に向かって進んでいるのではないかと頭を不安がよぎる。




 先日、4月から勤める就職先の配属場所の通知が来た。

 京都。

「遠恋かぁ。でも、毎月、京都観光できるわけだね。行きたいとこいっぱいあるんだ。」
と、ミサは必要以上に明るく言っていた。もう2年半だ。些細な気持ちの変化もなんとなく分かってしまう。

P3160613.jpg

 就職活動してたときから覚悟していたことだ。全国転勤のある企業だから、ミサと一緒にいれる可能性もあった。だが、やはり現実は甘くはない。4月からはオレは京都、ミサは仙台。どれだけ距離があるのかパッと分からないほど遠い。

「そんなドラマみたいにうまくいくわけないよな。」
とつぶやいたオレにミサは言った。


「ドラマみたいじゃなくていいんだよ。もし、ドラマみたいだったら、いつか最終回がきちゃうもんね。」

P3160611.jpg



 3月半ば、京都支社への配属が決まった新入社員へのオリエンテーションがあり、京都に来た。京都駅に着いたとき、天井を見上げた。ガラス張りの天井はどこまでも高かった。空の位置も分からない。
 その近代的な駅の構造はオレのもっていた京都のイメージと遠くかけ離れていた。4月からはじまる暮らしも、オレの想像なんかとは遠くかけ離れたものになるのかもしれないと感じた。新たな生活のどこにミサはいる?


 夜、オレの目の前には4人の女の子がいた。
 なぜか。オリエンテーションが終わった後、ケンイチのアパートに行った。京都にある大学に通っているケンイチは、2浪して入ったため、まだ大学2年生であり、遊ぶことに真っ最中の時期だ。アパートで缶ビール乾杯の話が「今、友達から電話来て、合コンのメンツ2人足りないらしいんだよ。ミサちゃんのことは分かってるけどさ、いるだけでいいから来てくれよ。」に変わったのだった。


 合コンでお決まりのどうでもいい血液型の話が始まる。ケンイチはA型なので几帳面らしい。高校までずっと一緒にいて几帳面の欠片も感じたことがない。周りの女の子からも、

「え~全然Aに見えな~い。」
と声が出る。

 B型のオレは自己中らしい。そうかもな。いるだけといっても結局ケンイチの話に流されて、この場に来てしまっている。ミサはどんな顔をするだろう。さっき、メールは入れといた。「人数合わせで合コン行ってくる。」と。シンプルすぎて、すごく言い訳くさいメールだ。ミサから、まだ返信が来ていない。


「ちょっと席かえよーぜ。」
 とアルコールで少し赤くなったケンイチが言ったとき、ケータイが鳴った。ミサからだ。しかも、メールじゃない。電話だ。


 足早に店の外に向かい、電話に出る。

「お疲れっさーぱんだぁ~♪ オリエンテーション大丈夫だった?」

 いつもの不思議ちゃんミサ語だ。それが疲れるようで安心する。

「なんてことはないよ。ちょっと説明聞いて終わった感じ。詳しくは入社してすぐの研修でやるからってさ。」

「ふ~ん・・・。それより、合コンの調子はどうなの?」

「・・・やっぱ京都弁の子はかわいいよね。」

「む~・・・どうせ東北弁はかわいくないですよ。」

「そういう意味じゃないって。」

慌てるオレにミサは言う。
「せっかくなんだから楽しんでくるんだよ~。」


 ミサはどう思ったのだろう。半分冗談で許して、半分怒ってる気がする。2年半もつきあってるからなんとなく分かる。


 いや嘘だ。いつも分かったつもりだけ。




 電話を切って、空を見上げる。星の位置は分からない。

 あと、ほんの数日。当たり前のようにミサと過ごしていた日々が大きく変わる。いや、大きいのか?
 ただ少し遠くに住むだけ。別にミサを好きな気持ちは変わるわけではない。でも、この言いようのない焦燥感、ぬぐえない不安感はなんなのだろうか。

 たぶん、ミサはそれをもっと敏感に感じている。暗闇の中を手探りで進むような先の見えない怖さを。


「どうしたん? 大丈夫?」

 後ろから声が聞こえた。向かいの席に座っていた子だ。たしか・・・さやかちゃん・・・でよかったかな。金に近いだいぶ明るい色の髪、まだ3月の肌寒い時期でもミニスカにブーツ。ケンイチの好きそうなギャルだ。

「ずっと外に行って戻ってこないから、見にきてみたんよ。」

「あ、ごめん。ちょっと考え事しててさ。中は盛り上がってるの?」

「ケンイチくんが、手相見れるっていうから、結婚は何年後とか盛り上がってたよ。」

「結婚ねぇ・・・。まだピンと来ねぇけどなぁ。」

 いつの間にか手相を見るなんてこざかしい技をケンイチが覚えてるなんて、やっぱり細かいA型なんだなと一瞬思った。手相とか占いとか女の子が好きそうな話だ。女は現実的かと思えば、ひどく非科学的なものを、さも根拠があるように信じたりもする。さらに結婚というものに、女の子はとても興味津々だ。結婚を結構早くから意識する人が多い気がする。

 ミサも考えている・・・気がする。卒業して、いつごろ結婚しようとか決して口には出さないが、内に秘めて考えていそう・・・な気がする。全部あくまで想像でしかない。


「4月からは京都に住むんやろ?」
オレの思考を遮るようにさやかちゃんが話しかけてくる。

「そだよ。全然何もわかんねーけどさ。」

「じゃあ、4月になってこっち来はったら、うちがいろいろ案内してあげるわ。」
小悪魔が優しい笑顔で甘いささやきを言ってくる。

「そう・・・。ありがと・・・。」
曖昧なそっけない返事を返す。

「ええよ。そのかわり、うち映画好きで週1ぐらいで見にいくんねんけど、ときどき見に行くの、つきおうてくれへん。」


 危険なバラの匂いがただよってくる。

 そんな嗅覚というよりも、第六感が脳に情報を伝える前に、今まで何億回とつながったシナプスが高速でつながり、ひとつの画像が脳内に形成される。

 浮かんでくるのは、ミサの顔。

P3160612.jpg


「映画は邦画に限る。ちょっと切ないぐらいがいい。」
とミサが言っていたことがあった。ミサはシリーズ物よりオムニバス物が好きで、続編が出ても絶対に見ない。気に入った作品だけを何度も見る。


 終わる潔さが良いのだと、不安定な続きが怖いのだと、はにかんで言っていた。



 そう、不安定な続きが怖いのだと・・・。





「さやかちゃん、ケンイチにさ、悪りーけど、先に帰るって伝えといて。」

「え?」

 呆然とするさやかちゃんを置き去りにするように、雑踏の中へ走り出す。街中をこんな感じに走りぬけるのなんて何年ぶりだろう。すがすがしい風が頬をつたって、はるか後方へと吸い込まれていく。


 不安定な続きを生み出すのは、新たな生活とか住んでいる場所ではない。

 心の持ちようでしかない。




 ミサがオレのことを、二人のことを、これからのことを、どう考えてるのかなんて分からない。ミサが口に出したことが全部ホントなのか、気を使って我慢しているのか、分からない。


 恋愛は互いの気持ちを信じることでしか存在しない。ただ互いの存在を、互いの想い合う感情を信じることでしか。





 駅前のケーキ屋で足をとめる。

「お客様、こちらいかがです? 生地にイチゴを練りこんでまして、イチゴは佐賀のとよのかを使用しております。」

 ミサのケーキを食べてるときが一番幸せですオーラの笑顔が頭をよぎる。

「それ2つください。」




 とりあえず、明日の朝一番の新幹線で帰ろう。


 ミサはきっと待っている。その確信がオレのすべてだから。




 さよならの後は、いつも ただいま。

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2008.02.15 Fri
2月の妄想恋物語

「ミキちゃん、今日もかわいい♡」
 毎朝、おまじないのように鏡の中の自分に言葉をかける。

『きれいになるためには、自分に自信をもつことが大事』
 non-noの今月号の特集にそう書いてあった。きちんとメイクした自分を素直にほめてあげることが大事みたい。

「ミキちゃん、今日もかわいい♡」
 もう一度つぶやいてみる。でも、今日は目の下のクマが隠しきれてないみたい。昨日、夜遅くまでチョコを作っていたから。


 いろいろ迷ったあげくホワイトチョコレートにすることにした。あの白さが私の気持ちを届けるのに一番ぴったりな気がするから。カカオ豆の苦い部分を一切とりのぞき、砂糖を混ぜた甘い甘いチョコレート。

 お姉ちゃんは正反対のビターチョコレートを作っていた。彼氏はコーヒーはブラックが好きな大人だから、大人のチョコをあげるんだって。カカオ分70%の苦いチョコレート。

 甘いほうがいいじゃん。私は天使のように白いホワイトチョコレートをタカシくんにあげるんだ。この胸の中の気持ちも一緒に。



 タカシくんのことはいつも見ている。いや追っかけまわしてる。だってタカシくんはカッコいいから。

 背の高いタカシくんはバスケ部。いつもミサとヨッコと一緒に体育館へ行って見ている。
 二人はアキラくんのほうがカッコいいっていう。でも私は断然、タカシくん! タカシくんがゴールを決めるたびキャーキャー言ってる。


 タカシくんもそれに気づいてる。そして、そんな私から逃げようとしてることにも気づいてる。



 でも、だからといって、この私の中のあふれんばかりのこの気持ちをどうしたらいいのかも分からない。やっぱりタカシくんを追っかけるしかない。私のモットーは、前向きに体当たり。


 いつか、いつかこの気持ちに応えてくれる。


 そう、信じて。




 つまらない授業。
 数学のせんせー、堂島はいつものハイテンションで今日も熱弁を奮う。今年のセンター試験の傾向はあーだこーだ。キミ達も一年後に向けて今から取り掛からないといけなぁ~い!
 前から三列目の席の私にまでつばが飛んできそうな勢いだ。進学と就職が半々ぐらいのこの高校でよく言うよ。

 そもそも、一年も先の話なんて聞いてらんないし、今は目の前のバレンタインデー。


 どのタイミングでチョコを渡そうかを考えるほうが大事だ。下駄箱に入れるってのも考えたけど、そんなの私らしくない。直接渡したい。だとしたら放課後。部活の前がいいのか。後がいいのか。それ以前にどっかに呼び出したほうがいいのか。あれこれ考えてしまう。


 チョコを渡されたタカシくんはなんて言うだろう。「オレも前からミキのことが」なんては言わないだろう。それでもまんざらでもなく赤くなったりしないかな。妄想だけが膨らんでいってしまう。



「じゃあ、試しにこの問題をみなさん解いてみてください。誰かに前に出て解いてもらいますからね。」
 堂島のダミ声が妄想の邪魔をする。


 はぁ。机の周りを歩いてくるので問題を解くフリをする。

 え~と。問い5。円の中にある2つの平行な線分PQとRS。この線分に垂直な・・・。問題を読むだけで気がめいってくる。私はいつも『平行』という言葉に目がとまってしまう。


 『平行』の定義。どこまで行っても交わることのない2つの直線。


 もし、私の歩く道とタカシくんの歩く道が平行であるならば、いつまでたっても一緒になることはない。永遠にどこまでも縮まらない距離。


 どこまでも、どこまでも歩いても。





 夜。こたつに入りながら、ボーっとどうでもいいお笑い番組を見る。

「チョコレート余ったから食べない?」
 お姉ちゃんが苦いビターチョコレートをもってくる。

「いらない・・・。」

「なんで、あんたそんな死んだ顔してんの?」

 私は今、露骨にそんな顔をしている。


 結局、部活の後、タカシくんを呼び出した。ホワイトチョコと一緒に私の気持ちもはっきりと伝えた。心臓バクバクでもう何を言ったか覚えていない。自分がどんな顔をしていたのかも分からない。覚えているのはタカシくんが言った一言だけ。



「ウレシイケド、ゴメン。ヤッパリミキチャンハ、トモダチダカラ。」



 片仮名で書かれた言葉のように無機質な音だけが耳に残っている。そして何度も頭の中まで響いて繰り返される。



 何で? 何でこんなに私は好きなのに、タカシくんは私を好きになってくれないの?


 どうしたらタカシくんの好きなタイプになれるの?


 タカシくんには好きな人がいるんじゃないの?


 答えの出ることのない問いが頭の中をめぐる。数学のように1+1=2、2+2=4なんて揺るぎない答えの出ることのほうが、世の中にはめずらしいことを、17歳にもなれば分かってしまう。


「ねぇ、お姉ちゃん。もし自分の歩く道と彼氏の歩く道がどこまでも交わらない平行な直線だったらどうする?」

 お姉ちゃんは「は?」みたいな顔をしてから、一息おいて答える。


「いいことじゃない。もし平行じゃない直線だったら、一度交わってしまった後はずっと離れ続けていくだけなんだから。」

 よく考えてみればそれもそうだ。きょとんとした私を置いてお姉ちゃんは続ける。


「隣り合わせの平行な道がいいかな。『平行』っていうよりは『並行』。並んで歩くの。私の歩く道と彼の歩く道はあくまで別だけど、ずっと隣を歩いていてほしい感じかな。」


「そっかぁ。」曖昧な返事をする。


 少しだけ思い出した。ゴメンと言われてから、いろいろ引き下がり「チョコは自信作だから、ちゃんと食べてね。」と言った後「うん。食べるよ。ありがとう。」と言ったときのタカシくんの優しい顔を。

 これから、どうしよう。



 つきあえるまでがんばるのか。あきらめるのか。やっぱり、すぐには分からない。とりあえず明日の朝会ったら、今までと変わらず元気よく「おはよう」は言おう。それだけは決めた。




 ストーブの熱で、お姉ちゃんがテーブルの上に置いたチョコが少しずつゆがんできた。ひとかけらだけそのチョコをとり、口の中へ運ぶ。


 ビターチョコの苦味が口の中いっぱいにひろがっていった。



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2008.01.31 Thu
1月の妄想恋物語

 振り袖姿の女の子があふれている。それに似合わず空模様がよくないのが少し残念な気がする。
 今日は成人式だ。いつの間にかそんな歳になっていた。大人になった。そんな実感はなかなかわかない。すでに、去年の8月の誕生日で20歳になっている。しかし、酒とたばこを堂々とできるようになったぐらいで何も変わってはいない。



 ひと通りくだらない式典を終え、中学校のときの仲間達との同窓会がはじまった。5年ぶりに集う仲間たちの昔と変わらぬ空気が心地よかった。そんな久しぶりの再会を楽しんでいたら、ふとある女の子に目が留まった。

 さちえちゃんだ。

「あ、ヒロキくん! なんかかっこよくなったんじゃない? ってか私のこと覚えてる?」


 忘れやしない。
 この笑顔に吸い込まれた思春期の頃を。


「さっちゃんでしょ。そんなにすぐ忘れねぇから。」
 さちえちゃんは自分の名前を古くさい名前だと言って嫌っていたので、回りの友達からさっちゃんと呼ばれていた。

 さっちゃん。そう呼ぶだけでどきどきしていた中学時代。ずっと好きだった。
 そんな気持ちを伝えるなど、当時のオレにはだいそれたことで何も言わずただ黙ってみていただけのもどかしさが昨日のことのように浮かんできた。

 さっちゃんは昔より少し太った気がした。子どもを産んだせいだろうか。

 風のうわさで去年、さっちゃんはできちゃった婚をしたという話を聞いていた。聞いたときは実感すら沸かず、何も感じなかったはずなのに、本人を見たら何かがこみあげてきた。みんな華やかなドレス姿なのに、少し大人っぽいジャケットとパンツスタイル。どこかに一児の母的なものを感じてしまったのは気にしすぎなのだろうか。

「今、何してんの?」
今日何回も言ったような同じ言葉を繰り返した。

「子育てに大忙しだよ~。話、聞いてる? わたし、赤ちゃんいるんだ。毎日、夜泣きするし、ホントもう大変・・・。でもなんだかんだ言ってかわいいんだけどね。」

 早口でまくしたてるようにしゃべるところも昔のままだ。懐かしさと「赤ちゃん」という言葉に何かあきらめのような不思議な感情が浮かび、天気雨のような笑顔になっている自分がいる。
 少し話し込んで、さっちゃんはまた別な女の子に呼ばれて、そっちに行ってしまった。

 昔と変わらず明るく元気そうでよかったじゃんか。


 きっと今、気持ち悪い笑顔をしている自分がいる。



 二次会も半ばにさしかかったころ、アルコール様のおかげで、オレはかなりいい感じになってきていた。そんな上機嫌のオレにミキが話しかけてきた。

「ちょっとさっきから、さっちゃんことばっか、じろじろ見すぎだから。」
「バ・・・何言ってんだよ、急に。」

 図星を突かれ、我ながら、なんて分かりやすい反応をしてしまうんだろうと思ってしまうほどだった。ミキはさっちゃんと仲が良く、元気というか、うるさいというかまぁ、そんな感じの女の子だった。

「ヒロキは、中学のころからさっちゃんのこと好きだったもんね。今からでも遅くないから、浮気させちゃえ!」

ミキも結構飲んでいるらしく、正面ストレートを打ってくる。

「バカ。そんな幸せを壊すようなことできるわけねぇだろ。」


「ホントに幸せ・・・なのかな・・・?」

顔が赤く染まり、説得力のないようなミキの声だったが、気にならずにはいられなかった。

「だって、赤ちゃんも生まれて幸せど真ん中だろ?」


「・・・鈍感・・・。」

ミキの侮蔑するような目つきに少しイラっとした。

「いつもスカートだったさっちゃんが、今日、パンツでしょ?」
 
そんな中学生のころしか知らないさっちゃんの最近の私服なんて分かるわけねーだろ。と言いたくなったが、ぐっとこらえた。


「さっちゃん、足にアザができてんだ。足だけじゃない、腕にも。」

「・・・どういうことだ・・・?」

「だんなに殴られたりしてんの。」



 酔いがきれいに醒めて行くのが自分でも分かった。全身に鳥肌が広がっていくような、そんな感じの悪寒が体を包み込んでいく。

「だんなから暴力ってこと?・・・ドラマティックバイオレンスってやつ?」

「・・・ドメスティックね。」

「・・・それ・・。」

「なんかよく分かんないけど、仕事でイライラなのか、子育てにうんざりなのか、すぐ殴るんだって。女に八つ当たりしないで欲しいよね。最悪・・・。さっちゃんに早く別れたほうがいいよって言ってんだけどね。」





 星はどこにも見えない。1月の寒さだけが厳しく刺さる。

 3次会はカラオケだった。気分はまったく乗らず、しかしだからといって、帰りたくもないオレは店の外で煙草をふかしていた。吐く息の白さと煙の白さが際立って違う。吐く息はこの寒さに照らされ、より一層の白さを見せる。煙の白は今のもやもやとした気持ちを映し出すかのように、ゆらゆらと揺れる。ただ、どちらも清廉潔白な白とは程遠く見える。

「あれ? 一人でどうしたの?」

 白いマフラーをしたさっちゃんが店から出てきた。CO2削減なんか全く考えてないほどにガンガン暑い店内から出てきたさっちゃんは、氷点下にさらされ身をかがめる。

「さっちゃんこそ、もう帰るの?」

「うん。さすがに赤ちゃん置いてきてるからもう帰らないと。」

「そっか。じゃ早く帰ってあげたほうがいいね。きっと寂しくて泣いちゃってるよ。」


 煙草の煙を空高くへ吐きだす。夜の闇に飲み込まれていく。

「ヒロキくんも煙草吸うんだね。うちのだんなも吸ってたけど、赤ちゃん生まれたときにやめるって言って、すっぱりやめてくれたんだ。いいヤツでしょ?」


「・・・ホントにいい人・・・?」

「え?」

「いや、その・・・」

 何でこんなことを言ってしまったのだろう。自分から言っておいてテンパってきた。


「ミキから何か聞いたの?」
今日一日笑顔のたえなかったさっちゃんの顔に少しくもりが見えた。

「うん。ちょっとさ。さっちゃん・・・大丈夫なの?」




 少しの、いやオレにとっては長く感じる沈黙の後、いつもの笑顔でさっちゃんは口をひらく。


「・・・ホント、ミキはすぐしゃべっちゃうんだもんな・・・でも、たいしたことないからね。ほんのちょっとのケンカみたいなものだったから。もう、絶対に手はあげないって指きりしたし。」

 いつものような早口の言葉が強がりに聞こえたのは気のせいなんだろうか。
 ミキから一方的な話を聞いただけだから、真実は分からない。けど、本当に彼女に辛い思いをしてほしくない。そう思っている。じゃあ、オレには何ができる? 5年ぶりに会ったような男が今さら何を言える?


「大げさに考えすぎかな? 大変だったら、無理しないでね。いつでも話聞くから。どんどん愚痴っていいからさ。」


 何も言えない。気の利いた言葉なんて何も。ぎこちない言葉を投げかけるだけで。それが少しでもさっちゃんの支えになってくれるなら。




「うん。ありがと。」



 温かな響き。



「だんなは、たしかに乱暴なとこあるけど、やさしい人なの。きっとこれからも、うまくやっていけるし。ヒロキくんが心配してくれなくても大丈夫。ごめんね、変に気を使わせた感じで。」



 ちからを感じた。
 この5年間でさっちゃんとだんなさんには積み上げてきた時間がきっとあるわけで。オレが何を言える隙間もない気にさせられた。
 ただ、それがさっちゃんにとって幸せな道なのか、不幸な道になっていくのかは分からない。
 本当に好きならば、彼女をとめるべきなのだろうか。そんなのは、ただのエゴなのだろうか。



「じゃあ、またそのうちね。困ったときは相談するから。バイバイ。」
いつもの無邪気な笑顔に戻ったさっちゃんは、手を振って、家族の待つほうへと足を向ける。


「うん。またね。」

 さっちゃんから何か言ってきたときは力になろう。そう思った。




 それは言い訳なのかもしれない。結局は待ってるだけ。何もしない。
 何も余計なことはせず。


 まるで事なかれ主義の大人じゃないか。いつの間にかオレは大人になっていたのかなと、そんなくだらないことを考えてしまう。




 雲間に月が見えた。

 このささやかな光がさっちゃんにも届いているはず。



 刺すような痛みの寒さだからこそ、月はいっそうと輝いている。


 オレは、また煙草に火をつけた。






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